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第七十五回「仏の心:裏面」~水のごとく、柔らかく

 ここ数年、司馬遼太郎の本を手にとっていなかったのだが、ふとネットで目に付いた本~「播磨灘物語」~を購入した。

 これは黒田孝高、いわゆる黒田官兵衛の物語であるが、来年には大河ドラマにもなるらしい。

 久しぶりに司馬遼太郎特有の歴史的史実を丹念に追いながら刻まれる朴訥としたリズム、そして淡々と流れながらも次第に重みを感じていく表現と筋に魅了され一気に読む。読み切るといつものごとく歴史の教訓を垣間見、未来に光が差すような恍惚感に浸ったのであったが、それが高じてこの主人公について色々調べてみた。

 するとどうも彼は「水」となるを目指していたらしいことがわかった。

 まず、彼の隠居後の法名は如水、すなわち水が如く、である。

 この官兵衛がこの法名を選んだ理由について司馬遼太郎は2つの説を提示しているが、どちらも推測の域をでない。しかし、彼は水が如しものを良しとしていたのは間違いないであろう。また諸説あるものの、彼が起こしたとされるのが水五訓でもあり、水との縁は深い。

 

 如水は老子が唱えた「上善如水」と通ずる。

 (以下、引用)

 最上の善は、たとえば水のようなものである。

 水は万物に偉大な恵みを与えるが、万物と争うことはせず、人々の嫌がる低湿の地をすみかとする。だから無為自然の道の在り方に近いのだ。

 善といえば、こんな言葉がある。

 すみかとしては大地の上が善く、心の在り方としては淵のように深いのが善く、仲間としては仁者が善く、言葉としては真実なのが善く、政法(おきて)としては世の中のうまく治まるのが善く、事に処しては有能なのが善く、行動としては時宜を得ているのが善いという言葉が。

 水もまたこれらの善をことごとく備えているといえるだろう。

 水の偉大さは万物に順って争わぬということにあるが、いったい争わぬからこそ過失もなく咎めだてされることもないのである。道の体得者・聖人の在り方もこれと同じだ。出典:福永光司「老子」朝日撰書

 

 何が善いかについては議論が可能だが、ここで重要なのはそこではなく、水の性質にある。水には3つの特徴がある。

 第1に水は変幻自在であるということ。

 自分では選べない環境が与えられる中で、そのめくるめく環境の変化に順応しながらも、水は水、その本質は変わらず。

 第2に水は低きに流れる。

 どう変化するかわからない環境の中で常に低きを目指す、つまり謙虚さを忘れず。

 最後に水は清濁を併せ呑む。

 清濁が常に混在する環境の中で、その清濁を分け隔てなく集めうる水は川となり、海となる、つまり清濁を容れる器となる。

 

 このような水となるということは具体的にはどういうことであろうか?と思考を巡らしてみる。

 水にならんとすることはつまり「柔らかい心」を持つということではないだろうか。

 心が柔らかいがゆえに、即ち何事にもこだわらず、またとらわれないがゆえに変化でき、謙虚となり、器が備えられる。

 そして柔らかい心であれば、容易に折れない。

 いかなる環境がもたらされようとも、順応でき、かつ自分の本質は変わっているのではない。氷や蒸気となっても、水に戻ることができる。

 またストレスもたまらない。なぜなら人と衝突しないからである。

 

 ここで問題なのは、なぜこの柔らかい心が固くなるのであろうか?という問いである。

 私たちの心は凝り固まってしまいがちだ。あるいは柔らかいなぁと思っていても、いつの間にか固くなってしまっている。それがゆえに、折れやすくなり、何かにぶつかると砕けてしまう。この原因もとどのつまりは…

 

 自分自分の心。

 

 これが拘りや囚われを生み、心を固くする。

 これを脱するには、己だけではなく、他を観ることだ。

 と考えれば、柔らかい心と仏の心は同じ円を描いている。

 …あなたの心はどうですか?

 自分の心を見つめなおすこと、ここに慈悲が生ずる。合掌

 

追伸:私なりに見て、官兵衛があのように物事を見通せた理由は「澄んだ眼」をもっていたがゆえである。戦局にありながらも私心を極力排し、水のごとき心を保った結果としてあの千里眼がある。その澄んだ眼をもって、戦国の移り変わり~織田家と毛利家、豊臣と徳川~を読み切ったのであった。

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