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第五十四回「歴史は廻る、されど同ぜず」~2008年を観る

 歴史は繰り返す。
 月並みな表現かもしれないが、これは真実である。
 が、まったく同じ軌跡を辿る事はない。
 例えば、たとえ双子でも100パーセント同じ生物である事はありえない。反面、同じ親から受けついだ類似点は多々みつかるであろう。
 これを仏教では、曼荼羅で解く。
 すべての仏は大日如来から広がる。が、その姿は千差万別なのである。
 そう、この世界にはまったく同じものなどない。…その本質は変わらずとも。


 
 来る2月25日、李明博氏が新しい韓国大統領に就任する。
 この一大式典を前に韓国はすでに沸いている。
 「一流先進国になろう」という李明博当選者のスローガンの下、行き交う人と人、ビルとビルの谷間の至るところには「一流先進国となるためにまずは交通ルールを守ろう」という文字がすでに張り出されている。
 国民の期待も相当なものだ。
 どのタクシーの運転手さんに聞いても「経済は苦しい。前の大統領が経済よりも政治を前においたからね。しかし、次の大統領は経済に力を入れて良くしてくれるはずだ」というような主旨を言う。
 「そしたら李氏に投票したんですね?」と聞くと、「もちろん!!」と返ってくる。

 この李明博新大統領を構成する代表的なキーワードを羅列するならば…

 日本生まれ、慶尚道、高麗大学、現代、ハンナラ党ではないだろうか。

 大阪で生まれ、慶尚北道を故郷とし、高麗大学で学生運動を指揮後、現代建設でのし上がり、社長と会長を歴任、そして民自党(現在のハンナラ党系)から出馬し政治家へと転身、ソウル市長を経て、今回の大統領就任となる。

 今回、この中から焦点をあてたいのは、「慶尚道」を基盤とするという事だ。
 今回の政権交代は金大中-盧武鉉の「全羅道ライン」から朴正煕-金泳三につながる「慶尚道ライン」への移行という一面を持つ。

 …今から約1300年から1400年前、全羅道には「百済」が、慶尚道には「新羅」があった。
 そしてこの二国は「唐」(現在の中国)に対してのスタンスが決定的に違った。
 百済は高句麗と倭と結び、唐と対抗せんとし、新羅は唐と宥和し、朝鮮半島の統一を目論む。
 結果、百済、高句麗は滅び、新羅が朝鮮半島においての主導権を握る。しかし、唐の圧力が増す中、新羅も反唐へと転換せざるをえなくなってゆく…。

 この当時の歴史と現在の状況ではいくつかの類似点がある。
 まずは618年の「唐」の勃興、つまりは1979年「三中全会」(中国共産党第十一期中央委員会第三回全体会議)を一大転換点とした中国が大国として再登場してきた事である。
 
 次に、この唐と新羅が結んだ事が朝鮮半島情勢に大きな影響を与えた事だ。
 つまりは1989年の冷戦崩壊後の1992年8月24日、韓中国交正常化が成された事を指す。
 そして今再び、新羅が勃興せんとしている、とも見える。


 ではこの帰結は1300年前と同じであろうか?
 新羅が唐と結び、高句麗と百済を滅亡へと追いやるのであろうか?=李明博新韓国大統領は対北朝鮮強硬路線を採るのであろうか?
 
 私はこの帰結は…異なると考える。この理由は二つある。

 一つには当時より役者が増え、かつ使用している舞台と小道具が異なる事。
 現在の北東アジア情勢には中国と朝鮮半島だけでなく、国境を接するロシア、そして地理的には遠く離れているが米国がメインプレイヤーとして大きな影響を与えている。また今は、核兵器という最強の小道具の存在があり、地球温暖化に代表される地球規模での脅威に面しているという舞台の上に立っている。
 このように役者・舞台・小道具が違えば、筋も異ならざるを得ない。
 (しかし同時にまた、それを演じるのは同じ人間であり、舞台はこの地球であることに変わりがないゆえに、多国間外交の本質もまた孫子の春秋時代、ツキュディディスが記したアテネ・スパルタの時代と強く通ずることを忘れてはならない。)

 次に1300年前は北東アジアにおいて、衰亡のピークを成しているからだ。そして私が観るに現在は再興の始点である。
 仏教では始まりと終わりは表裏一体であると説き、それは真実であるが、ここでは仮に始点と終点を定めてみることとする。

 さて、まず高句麗の建国(BC1世紀頃)を始点~繁栄のピーク(100)としてみよう。であれば終点は百済、高句麗が次々に滅亡した600年代、ここが0~ゼロとなる。
 以後は朝鮮半島と事実上一体であった倭との間にも壁ができていき、分裂の歴史の基礎となっていく。

 次に繁栄のピークが訪れるのは1200年代、ここでは高麗ではなく…チンギスハーンの蒙古帝国と仮定しよう(※民族的に同系であるがゆえに)。
 ならばこの600年後が衰退のピークとなるはずだ。
 1800年から1900年にかけては、欲ぼけした朝鮮王朝(李氏王朝)が日本帝国の植民地となる前夜である。しかも日本帝国も後の太平洋戦争に敗れ、今も「Normal Country」の体を成せていない。北東アジアの暗黒の時代がここから再び始まった。
 
 そしてここから100年が経った今、2008年をどのように位置づけるか?
 私的には2008年は米露という大国において大きな変化があり、何かあるという確信に近い予感がある。が、未来は…

 私にはわからない。
 ただ私は日本列島から朝鮮半島へと連なる北東アジア繁栄の本格的契機となる事を願っている。
 そして再び「和」の思想を持つアジアが2400年から2500年にかけてピークを見据えながら徐々に広がり、やがてこの「和」の下に人類が人類だけでなく、この地球との共生を成す事と信じている。

 …李明博大統領は慶尚道を故郷とするが、生まれは日本だ。ここに異色さがある。
 そして彼は一流先進国を標榜し、米中露日に重点を置く全方位外交から資源外交への軸足を徐々に移す事を打ち出している。先進国となるためにはこの資源問題の解決が不可欠であるからだ。
 私はこれらから…

 DNAの進化をもたらしたのが通常ではない遺伝子の中のくず~「ジャンク」(統国寺の法話時事第四回「遺伝子の中のくず」へリンク)であった事を思い起こす。
 
 歴史は繰り返す。しかし、まったく同じ道は辿らない。合掌

追伸:これは欧米においても変わらない。であれば、一つの折り返し地点に来ていると言えよう。

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