「法性偈」

元暁大師とともに修行した、7世紀の海東（新羅）華厳宗の高僧で、元暁大師とともに華厳の祖師に数えられる義湘大師（ぎしょうだいし・의상대사）。

義湘大師が華厳経のエッセンスを210字にまとめられたもの（※実際には燃え残ったものと伝えられる）が、法性偈（의상조사 법성게）です。妙なる法性と、その一乗との関係性について示しているお経ですが、より深く読めば、原子や量子の存在が科学的に証明された現代に至ってこそ、この示唆するところは大きいと思います。

「一中一切多中一　一即一切多即一」
宇宙と個はばらばらの存在である、と考えるか。
あるいは、いつもつながっている、と考えるか。
この現代に至れば、宇宙と私はつながっているということは明白でしょう。
ここに気づけば（元暁大師の一切唯信造）、心は温かくなります。
以下、その現代日本語訳です。

法性円融無二相（법성원융무이상）
法の本性は円満に融け合い、二つの姿はない。

諸法不動本来寂（제법부동본래적）
すべての現象は動かず、もともと静かで寂かなのだ。

無名無相絶一切（무명무상절일체）
名も形もなく、すべての区別を超えている（絶っている）。

証智所知非余境（증지소지비여경）
悟りの智慧でしか知り得ず、他の方法ではわからない。

真性甚深極微妙（진성심심극미묘）
真実の本性は非常に深く、極めて微妙である。

不守自性随縁成（불수자성수연성）
自らの本性に固執せず、縁に従って現れる。

一中一切多中一（일중일체다중일）
一つの中にすべてがあり、多くのものの中に一つがある。

一即一切多即一（일즉일체다즉일）
一つはすべてであり、すべては一つである。

一微塵中含十方（일미진중함시방）
ひと粒の塵の中にも、全宇宙が含まれている。

一切塵中亦如是（일체진중역여시）
すべての塵の中も、同じように宇宙を含む。

無量遠劫即一念（무량원겁즉일념）
無限の長い時間も、一瞬の思いの中にある。

一念即是無量劫（일념즉시무량겁）
一瞬の思いこそが、無限の時間なのだ。

九世十世互相即（구세십세호상즉）
過去・現在・未来の時間も互いに融け合い、

仍不雑乱隔別成（잉불잡난격별성）
乱れることなく、それぞれがはっきりと成り立っている。

初発心時便正覚（초발심시변정각）
初めて悟りを求めようとする心を起こした時、すでに仏の悟りは完成している。

生死涅槃常共和（생사열반상공화）
生死と涅槃は、もともと一つである。

理事冥然無分別（이사명연무분별）
真理と現象は、深く溶け合って区別できない。

十仏普賢大人境（십불보현대인경）
これは、毘盧遮那仏と普賢菩薩の境地である。

能仁海印三昧中（능인해인삼매중）
仏の「海印三昧」の中から、

繁出如意不思議（번출여의부사의）
如意宝珠のように、不思議なことが自由自在に現れる。

雨宝益生満虚空（우보익생만허공）
宝の雨が降り注ぎ、すべての生き物を利益し、虚空に満ちる。

衆生随器得利益（중생수기득이익）
衆生は、それぞれの器に応じて利益を得る。

是故行者還本際（시고행자환본제）
だから、修行者は本来の境地に帰らなければならない。

叵息妄想必不得（파식망상필부득）
妄想をやめなければ、決して悟りは得られない。

無縁善巧捉如意（무연선교착여의）
執着のない智慧で如意宝珠をつかみ、

帰家随分得資糧（귀가수분득자량）
悟りの境地に帰るための修行の功徳を、それぞれの分に応じて得る。

以陀羅尼無尽宝（이다라니무진보）
尽きることのない宝である陀羅尼を用いて、

荘厳法界実宝殿（장엄법계실보전）
法界を荘厳し、真実の宝殿とする。

窮坐実際中道床（궁좌실제중도상）
中道という究極の真理の座に深く坐れば、

旧来不動名為仏（구래부동명위불）
「もともと動くことないもの」、それを仏と呼ぶのだ。