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第十九回「感謝を以ってこれを貫け」 ~二〇〇八年 統国寺の標語

 セへ ポク マニ パドゥセヨ。
 あけましておめでとうございます。

 今年も例年の如く、二〇〇八年最初の法話は「統国寺の標語」について記したいと思います。



 さて、今年二〇〇八年は…

 戊子年(ツチノエノネズミ)です。
 子(ねずみ)は仏教では…

 大黒さん(大黒天)の使いです。

 一生懸命に子の日に願掛けをすれば、その願いを大黒さんが叶えると伝えられます。

 そして、納音は霹靂火です。

 この霹靂という言葉、皆様には聞き覚えがおありでしょう。
 そうです、あの青天の霹靂の「ヘキレキ」です。
 
 即ち、晴れわたる空に急に鳴り響く雷、の火の年であります。
 つまり、変化は変化でも、急激な変化が表面に目に見えて現れる。

 このような目に見えて、この世が移り変わるであろうこの二〇〇八年をどのように生き、自分なりの幸せを得るか。

 そのために住職は今年の標語に「感謝を以ってこれを貫け」としました。

 昨年の標語、「明珠在掌」、幸せはすでに私の、そしてあなたの中にある、という事に気づけば、すべてがありがたい。
 そこに広がるのは「感謝」のみであります。

 たった一杯のコーヒーを飲めること、友達と楽しい一時を過ごせること、自分の趣味を持てること…
 勉強ができること、仕事ができること…
 家があること、家族が一人でもいること…
 そして、今空気を吸って吐けること、つまりは今人間として生きていること。

 これをあたり前と思ってしまえば、幸せを見失ってしまうでしょう。

 すべては因と果、そしてこれをつなぐ縁~人智の及ばぬ深遠なる力~によって紡がれた奇跡なのです。

 住職は言う。

 「憎しみでさえもありがたい。」

 …今、注目されているテノール歌手に新垣勉さんという方がおられる。

 新垣さんは、盲目である。それも生来のものではなく、幼少の頃、誤って山羊の薬で眼を洗ってしまい、眼がただれてしまったのであった。
 また彼は1952年、朝鮮戦争の真っ只中、前線基地の役割を果たした沖縄米軍基地勤務のメキシコ系アメリカ兵と日本人の母との間に生まれた。

 ハーフで、盲目…これによって彼は言葉にいいがたい苦労を強いられることとなる。

 その中で、自殺を試みた事もあった。

 結果、父と母を死ぬほど憎む事となる。

 “自分ほど不幸な人間はいない”と考えていた。

 しかし、彼にも心の支えがあった。「歌」であった。
 ある日、有名なボイス・トレーナーの先生が来たと聞いて、オーディションを受けに行ったという。
 そこで、先生が思いがけなく、叫んだ。

 「日本人離れした明るい声。君のこの声はラテン系のお父さんがくれた宝物だ!」

 なぜ、歌がうまいのか、それは、あの憎き父親がくれたこの声のおかげ…
 父親がいなければ、私のこの歌もなかったのか…

 これに気づき、憎しみは感謝へと変わり、彼の心は解放されたのである。

 「一人でも自分の歌を聴いて“元気をもらった”と言ってくれる人さえいれば、自分は生きているだけで嬉しい」
 
 そう、憎しみさえもありがたい事に気づけば、私、そしてあなたの前には常に幸せだけが広がるでしょう。合掌

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